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なぜ採用フェーズで”ファン”を創る必要があるのか

2025年09月18日
なぜ採用フェーズで"ファン"を創る必要があるのか

”ファン”創りの重要性は私がベンチャー企業で人事をする中で、非常に重要だと実感したポイントです。
ただ単に「採用できるか否か」だけでなく、勤続年数であったり、エンゲージメント、パフォーマンス(主体性・生産性)にまで影響します。

優秀なだけの人材が事業を前進させるわけではありません。
”熱狂的ファン”の主体性によって事業が成長します。

はじめに 変化する採用市場の現実

現代の採用市場は、企業が求職者を選ぶ時代から、求職者が企業を選ぶ時代へと変化しています。優秀な人材の獲得競争が激化する中、従来の「選考して合否を決める」という一方的なアプローチでは、もはやまともな採用はできない時代です。

この状況下で私が重要視しているのが、採用フェーズにおける「ファン創り」という概念です。単に採用するだけでなく、選考プロセス全体を通じて候補者を自社の「ファン」にします。
一見マーケティング的なアプローチに思えますが、実は長期的な人材戦略として機能する考え方です。

採用における”ファン”とは

採用におけるファン創りとは、採用プロセス全体において会社が行うコミュニケーションで候補者体験(Candidate Experience)の向上による、求職者に自社への好感度と愛着を育むプロセスです。

選考を受けた候補者が選考結果に関わらずその企業を好意的に語り、
顧客や協力者として企業価値向上に貢献する状態を創り出すことを目指します。

求職者心理から見る「ファン」の重要性

1. 意思決定プロセスの複雑性

転職希望者の意思決定プロセスは、従来よりもはるかに複雑になっています。
ここで興味深いのは、「精神的代数」という理論を、就職の意思決定に応用すると、その複雑さがより明確になることです。

この理論は意思決定において、メリットとデメリットを紙に書き出し、それぞれに重みを付けて数値化する手法です。
就職活動においても、求職者は無意識にこの作業を行っています。
各社の比較を客観的数値に置き換えて、実際に紙に書いたりデータ化する人はあまりいないと思っています。
給与・福利厚生・職務内容・企業文化・成長機会・勤務環境など、多くの要素を総合的にかつ抽象的に評価し、最終的な意思決定に至ります。

重要なのは、この評価プロセスにおいて、採用プロセス中の候補者体験が各要素の「重み」に大きく影響することです。
良い候補者体験は、企業文化や成長機会への評価を押し上げ、悪い体験は条件面での魅力を相殺してしまう可能性があります。

2. 心理的安全性と信頼関係の構築

組織心理学を活用した採用プロセスが重要視される理由は、求職者が採用プロセスを通じて企業文化や価値観を体感し、心理的な適合性を判断するためです。

ファン創りのアプローチは、この心理的安全性を戦略的に演出し、
求職者との信頼関係を早期に構築することができると考えています。
結果としてより深い相互理解が生まれ、採用後のエンゲージメント向上にも直結します。

採用ファン創りの具体的効果

1. 採用成功率が劇的に変わる

緻密に設計された採用フローでは、一度接点を持った候補者が離脱しにくい傾向にあります。
”特別な体験”をした企業は候補者の思考選択肢から外れにくく、
内定を複数獲得する優秀層の採用にも非常に効果的です。

また、ファン化した候補者による口コミは、企業の採用ブランディングに大きく寄与します。一人のファンが、複数の潜在的候補者を企業に引き寄せる広告塔としての役割を持たせることもできると考えています。

2. 組織文化の強化

採用段階でのファン創りは、企業文化を内部で整理し対外的に発信することで、内部メンバーに浸透させる機会でもあります。
採用担当者や面接官が企業の魅力を候補者に伝える過程で、自社の価値観や文化への理解が深まり、結果的に組織全体のエンゲージメント向上につながります。

3. 競合優位性の確立

採用における心理的要素を戦略的に活用することで、同業他社との差別化が図れます。候補者体験の質で競合に勝ることは、給与や待遇面の衛生要因での競争よりも持続可能な優位性を生み出します。

採用でファンを創る一歩目

採用段階でのファン創りを実現するには、まず採用プロセス全体を「候補者との関係構築の場」として再定義する必要があります。
面接は評価の場ではなく、相互理解を深める対話の場であり、ファンを創るために企業側が口説くチャンスでもあります。

具体的には、選考の各段階で候補者が何を感じ、何を求めているかを心理学的観点から分析し、それに応じたコミュニケーション設計を行うことが求められます。

おわりに 持続的な組織成長への投資

採用段階でのファン創りは、短期的な採用成果だけでなく、長期的な組織成長への投資です。候補者体験を求職者心理に基づいたアプローチをとることにより、企業はただの雇用関係を超えた、真の「ファン」としての人材を獲得できます。
もちろん採用フェーズだけでなく、入社後の定期的なコミュニケーションも
ファンをファンとして維持し続けるために重要です。
本来はそのために1on1があるのだと思っていますが、機能していないことがほとんどですよね。

人材の流動性が高まる時代において、企業の持続的成長を支えるのは、その企業に心から共感する「ファン」の存在だと思っています。
採用段階からそのファンを創り続けることが、これからの事業成長における必須戦略となると考えています。